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Conflict of Interest

会社と役員のあいだで車を売買するとき【利益相反取引・取締役会か株主総会の承認】

社長の車を会社名義にする、社用車を役員が買い取る――どちらも会社法の「利益相反取引」になりえます。承認をどこで取るのか、取らないと何が起きるのかを、条文から整理します。

社長が個人で乗っていた車を会社名義にする。会社の車を役員が買い取る。社用車を役員の家族に安く譲る――どれも会社法でいう「利益相反取引」になりえます。車1台でも扱いは同じです。

まず結論

取締役会があれば取締役会、なければ株主総会の承認が要ります(会社法356条1項・365条1項)。承認は「重要な事実を開示して」受けるものです。🔴 取らないと、会社に損害が出たときに「任務を怠った」と推定されます(423条3項)。自分のために会社と取引した取締役は、落ち度がなかったと言っても責任を免れられません(428条1項)。

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まず、どの号に当たるかを見ます

会社法356条1項は、取締役は次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならないとして、3つの号を並べています。

条文が書いていること車でいうと
1号
競業
取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき会社が中古車販売業のときに、役員が個人で同じ商売をする
2号
直接取引
取締役が自己又は第三者のために株式会社取引をしようとするとき会社の車を役員が買う/役員の車を会社が買う
3号
間接取引
株式会社が取締役の債務を保証することその他、取締役以外の者との間で会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき役員の車のローンを会社が保証する
車の売買はふつう2号です

「自己又は第三者のために」とあるので、役員自身が買う場合だけでなく、役員が代表をしている別会社や家族が買う場合も入りえます。名義が誰かではなく、誰のためにする取引かで見る建て付けです。

02

承認するのは取締役会か、株主総会か

356条1項の本文は「株主総会」です。そのうえで、会社法365条1項が取締役会設置会社では「株主総会」を「取締役会」とするとしています。

会社の形承認する機関根拠
取締役会設置会社取締役会会社法365条1項
取締役会がない会社株主総会会社法356条1項
どちらかを先に確かめてください

取締役会を置いているかどうかで、作る書類が変わります。取締役会議事録なのか、株主総会議事録なのか。⚠ 思い込みで作ると、承認機関を間違えた議事録ができあがります。定款と登記で確かめてから作ってください。

条文は「当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない」としています。⇒ 「承認します」の一行だけでは、条文が求めている形になっていません。どの車を・いくらで・誰との間で、という重要な事実が開示されている必要があります。

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承認があると、民法108条が外れます

会社法356条2項は、民法108条の規定は、承認を受けた1項2号・3号の取引については適用しないとしています。

民法108条(自己契約及び双方代理等)

1項は同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為、2項は代理人と本人との利益が相反する行為について、いずれも代理権を有しない者がした行為とみなすとしています(本人があらかじめ許諾した行為などは除かれます)。

代表取締役が会社を代表して、自分と売買契約を結ぶ――これは形のうえで自己契約そのものです。承認を取ることが、代理権の側の問題も片づけるという組み立てになっています。

承認は「社内の手続き」ではありません。取引そのものが立つかどうかに関わります。

04

取締役会設置会社は、あとで報告も要ります

会社法365条2項は、取締役会設置会社において356条1項各号の取引をした取締役は、その取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならないとしています。

前の承認だけでは足りません

①事前に承認 → ②取引 → ③遅滞なく報告、の3段です。⚠ ②で終わりにしている会社は少なくありません。報告のほうを落とすと、あとから議事録を並べたときに③だけが無い状態になります。納車のあと、次の取締役会で報告まで済ませてください。

05

取らなかったときに効いてくる2つの条

承認を取らないことに対して、会社法は罰則ではなく責任で組み立てています。

定めていること
423条1項役員等がその任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う
423条3項🔴 356条1項2号・3号の取引によって株式会社に損害が生じたときは、その取締役等は任務を怠ったものと推定する
428条1項🔴 356条1項2号の取引(自己のためにした取引に限る)をした取締役の423条1項の責任は、任務を怠ったことが自分の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない
428条2項前三条(責任の一部免除などの規定)は、428条1項の責任については適用しない
「推定」と「免れられない」は別の話です

423条3項は、損害が出たときに「任務を怠った」を出発点にするという意味です。争うなら、怠っていないことを取締役の側が示すことになります。
428条1項はもう一段重く、自分のためにした直接取引なら、落ち度がなかったという理由では責任を免れられません。会社から役員が車を買う場面は、いちばん重い型に当たります。

価格の妥当性も、ここに効いてきます。相場からかけ離れた値で動かせば、会社に損害が生じたかどうかが問われます。査定書や相場資料を残しておくのは、そのためです。

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よくあるつまずき

  • 「1台だけだから」と承認を省いた金額や台数の線引きは条文に書かれていません
  • 取締役会があるのに株主総会議事録を作った取締役会設置会社の承認機関は取締役会です(365条1項)
  • 「承認します」だけの議事録を作った条文は「重要な事実を開示し」と書いています
  • 取引後の報告を忘れた取締役会設置会社は遅滞なく報告が要ります(365条2項)
  • 役員の家族名義なら関係ないと思った「自己又は第三者のために」なので、入りえます
  • 価格の根拠を残さなかった損害が出たかどうかを後から示せなくなります
  • 承認を「社内の話」だと考えた承認があってはじめて民法108条が外れます(356条2項)
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よくある質問(FAQ)

Q会社の車を社長個人が買い取ります。何が要りますか?
A

会社法356条1項2号の取引(直接取引)に当たります。取締役会設置会社なら取締役会、そうでなければ株主総会で、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けます(356条1項・365条1項)。取締役会設置会社は、取引後、遅滞なく重要な事実を取締役会に報告します(365条2項)。

Q1台だけ、しかも安い車です。それでも要りますか?
A

条文は金額や台数で線を引いていません。356条1項は「取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき」としか書いていません。安い・小さいという理由で外れる書き方にはなっていません。

Q承認を取らずに売買してしまいました。
A

会社法423条3項は、356条1項2号・3号の取引によって会社に損害が生じたときは、その取締役等は任務を怠ったものと推定するとしています。さらに428条1項は、自己のためにした2号の取引について、責めに帰することができない事由によるものであることをもって責任を免れることができないとしています。まずは会社の側で事実関係を整理してください。

Q役員の妻が買う場合はどうですか?
A

356条1項2号は「自己又は第三者のために」としています。取締役本人が買う場合に限られていません。⚠ 個々の場面で当たるかどうかの判断は、条文の文言だけでは決まりません。会社の顧問弁護士・税理士に確認してください。

Q承認があると、何が変わるのですか?
A

会社法356条2項は、民法108条の規定は、承認を受けた2号・3号の取引については適用しないとしています。民法108条は自己契約・双方代理・代理人と本人の利益相反行為を代理権を有しない者がした行為とみなす条文なので、承認は代理権の側の問題にも効きます。

Q運輸支局には議事録を出すのですか?
A

窓口に何を出すかは運用によります。この記事は会社法・民法の側だけを整理しています。登録の必要書類は、管轄の運輸支局にご確認ください(→名義変更の必要書類)。

Q会社が役員の車のローンを保証する場合は?
A

356条1項3号が、株式会社が取締役の債務を保証することその他、取締役以外の者との間で会社と当該取締役との利益が相反する取引を挙げています。3号も承認の対象で、423条3項の推定も3号を含みます。

出典(一次情報)

競業及び利益相反取引の制限と民法108条の不適用:会社法 第356条/取締役会設置会社の承認機関と取引後の報告:同 第365条/任務懈怠の推定:同 第423条(1項・3項)/自己のためにした取引の特則:同 第428条/自己契約及び双方代理等:民法 第108条(いずれも e-Gov法令検索)。登録の窓口に出す書類は運輸支局の運用によります。

その会社が、もう解散しているとき

解散して清算結了の登記まで済んでいる会社の名義で車が残っている場合は、利益相反ではなく清算の話になります。会社法476条は「清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなす」としており、基準は登記ではなく結了です。→清算結了した会社名義の車を買い取るとき

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